第54回全日本大学駅伝対校選手権大会(11月6日)

扉の写真には説明が必要だろう。
近鉄宇治山田駅には「駅ピアノ」が置かれている。そこに、今大会にエントリー登録されたものの出場できなかった菅野雄太(教2・西武文理)が現われ、いきなりショパンのノクターンを弾き始めたのだ。うまい! そのレベルの高さに驚いた。そこで思い出したのが、藤井忠彦(1960年、教育卒・宇部高)選手のエピソードだ(話は長くなるが、少々のご辛抱を)。彼は小さなときからピアノを習い、高校時代、県のピアノコンクールで3位入賞という結果も出していた。当然、その道に進むべく、毎日ピアノの練習を重ねていた。ところが、いやいや出場した校内マラソンで、陸上部員を寄せつけず圧勝したことが、運命を変えたのだが、このときは本人も気づいていない。

勧誘されて陸上部に入るや、宇部高校のエースとして、全国高校駅伝の山口県予選を勝ち抜き、本選出場を果たしたのだ。それだけでも驚きだが、花の1区でなんと区間賞を獲得!(藤井は3年で陸上を始めたため、インターハイの出場経験がなく、全国的にはまったく無名だった)。そんな実績を持ちながら、藤井の音大進学の意志は変わらず、国立音大を受験し、合格した。しかし、家庭の事情で進学をあきらめざるをえなくなり、地元の宇部興産に就職して、音楽の道を断念した。ところが、毎日、日課のように走っているうち、今度は陸上への情熱が沸き上がってきた。そこで、3年間、働きながら学費を貯め、憧れていた早大を受験して、見事に合格したのだ。

3年のブランクがあったにもかかわらず、藤井は1年生で、日本インカレの5000m、10000mの2冠に輝き、2年生のときには、5000mで日本記録を21年ぶりに書き換えている(箱根駅伝の4年間は、10区4位、5区2位、5区4位、9区2位で、区間賞こそないが、安定した結果を残している)。まさに「伝説のアスリート」といえるだろう。卒業後は、日立製作所に入り、高校の音楽部を指導したり、会社の応援団で、吹奏楽の指導、指揮をしたり、やっぱり忘れられなかった音楽に関わっていた。「手から足への転回」並みの人間にはとても経験できない人生だ。

菅野選手には、「第二の藤井になる!」意気込みで、同じ「一般入試の星」伊福陽太(政経2・洛南高)らとともに「スポ科軍団」を「本気で」脅かす存在になってほしいと思う。

(感動のあまり、駅伝の話が後回しになってしまい、申しわけありません)

やっと本題。
駅伝は、完全に5Gの世界に入った。高速化は進む一方だ。駒大は大会記録(5時間11分08秒)を4分41秒も短縮して優勝した。そして、昨年と同じ6位だった早大の記録も、昨年の優勝タイム(5時間12分58秒)を上回っているのだ。記録は気象状況に左右されるので、単純な比較はできないが、昨年と今年で、コンディションが大きく異なっていたとは思えない。いまや、選手たちは「より速く、より高く、より強く」というオリンピック標語の「3点セット」すべてを意識して、練習に励む必要があるのではないか、そう感じさせた大会だった。

花田勝彦新監督は、就任後の7月、「いまの状況を見ていると、3位以内に入る可能性は、全日本大学駅伝がいちばん高い」と語っていた。実際、そのとおりの展開だった。しかし、残念ながら、早大には、上位3校のように、一人タレても、そのロスを取り返せるゲーム・チェンジャーが出ない。弱みには違いないが、考えようによっては、出場全選手が100%(できればプラスα)の力を発揮すれば、なにも問題はないはずだ。今回は、箱根の予選会もあり、「走り込みが足りない状態で、選手たちは、予想以上の記録を出した」(花田監督)ことは、箱根への期待を抱かせるに十分な根拠になる。1、2年生が実に「たくましく」なっているのを実感したことも、今大会の収穫だったと言えるだろう。

●1区(9.5キロ)
<チーム順位・個人区間順位)
1位 大東文化(ピーター・ワンジル)26分58秒(区間新)
2位 青山学院(目片将太)27分08秒
3位 中大(千守倫央)27分13秒
10位 早大(間瀬田純平=スポ科1・鳥栖工業)27分24秒

●2区(11.1キロ)
<チーム通過順位)
1位 創価大 58分29秒
2位 駒大 58分30秒
3位 順大 58分52秒
6位 早大 59分13秒
<個人区間順位>
1位 葛西 潤(創価大)31分12秒(区間新)
2位 佐藤圭汰(駒大)31分13秒(区間新)
3位 三浦龍司 (順大)31分27秒
6位 井川龍人(スポ科4・九州学院)31分49秒

●3区(11.9キロ)
<チーム通過順位>
1位 駒大 1時間32分31秒
2位 順大 1時間33分09秒
3位 早大 1時間33分12秒
<個人区間順位>
1位 石原翔太郎(東海大)33分48秒
2位 佐藤一世(青山学院)33分52秒
3位 石塚陽士(教2・早実)33分59秒


残り1キロ、順大・野村優作を追い詰める石塚。準エース級がそろう3区で、区間3位は十分誇れる結果だ。

●4区(11.8キロ)
<チーム通過順位>
1位 駒大 2時間06分12秒
2位 早大 2時間07分13秒
3位 順大 2時間07分22秒
<個人区間順位>
1位 山川拓馬(駒大)33分41秒
2位 横田俊吾(青山学院)33分44秒
3位 山口智規(スポ科1・学法石川)34分01秒


箱根駅伝予選会で起こしたアクシデントの「後遺症」をまったく感じさせない山口の好走に、メンタルの強さを改めて知らされた。

●5区(12.4キロ)
<チーム通過順位>
1位 駒大 2時間42分12秒
2位 國學院大 2時間43分50秒
3位 早大 2時間44分25秒
<個人区間順位>
1位 青木瑠郁(國學院大)35分50秒
2位 篠原倖太郎(駒大)36分00秒
3位 嶋津雄大(創価大)36分10秒
11位 小指卓也(スポ科4・学法石川)37分12秒


久しぶり「お目見え」の大器・小指だったが、腹痛を起こし、惜しくも失速。

●6区(12.8キロ)
<チーム通過順位>
1位 駒大 3時間19分39秒
2位 順大 3時間21分37秒
3位 國學院大 3時間21分37秒
8位 早大 3時間23分23秒
<個人区間順位>
1位 吉居大和(中大)37分01秒(区間新)
2位 西澤侑真(順大)37分09秒(区間新)
3位 中村唯翔(青山学院)37分21秒
15位 菖蒲敦司(スポ科3・西京高)38分58秒

わが「最強の勝負師」は、ロードに限ってだが、なかなか本領を発揮できない。新キャプテンの名と誇りにかけても、トラック&ロード両用の「戦車」になってほしい。

●7区(17.6キロ)
<チーム通過順位>
1位 駒大 4時間09分17秒
2位 青山学院 4時間11分44秒
3位 國學院大 4時間12分35秒
7位 早大 4時間14分41秒
<個人区間順位>
1位 田澤 簾(駒大)49分38秒(区間新)
2位 近藤幸太郎(青山学院)49分52秒(区間新)
3位 フィリップ・ムルワ(創価大)50分37秒
5位 伊藤大志(スポ科2・佐久長聖)51分18秒


ここに田澤、近藤、ムルア、平林清澄(國學院大)ら、有力校のエースが集結。16秒差あった東洋大・梅崎蓮(後ろ)を追い抜き、タイムを確認する伊藤。

●8区(19.7キロ)
<総合順位>
1位 駒大 5時間06分47秒(大会新)
2位 國學院大 5時間10分08秒(大会新)
3位 青山学院 5時間10分45秒(大会新)
4位 順大 5時間10分46秒(大会新)
5位 創価大 5時間12分10秒
6位 早大 5時間12分29秒
<個人区間順位>
1位 花尾恭輔(駒大)57分30秒
2位 伊地知賢造(國學院大)57分33秒
3位 四釜峻佑(順大)57分45秒
5位 佐藤航希(スポ科3・宮崎日大)58分12秒


アンカー常連のいる中、佐藤は初のアンカー経験だったが、力をつけた今、心配無用の走りで、16秒差あった中大を抜き去り、6位に!

2022-11-07